四人家族で育った。
定かな記憶ではないけれど箸の持ち方を教えてくれたのは父だと思う。
小学生の頃、父が箸の持ち方を褒めてくれたのを覚えていて
どこを褒められたかというと“箸を長く持つ”ところだった。
箸を長く持っていても料理を綺麗に掴めるのは、箸を上手に使えている証拠だと褒めてくれた。
ところが小学、中学、高校と、時が経つにつれて私はクセのある持ち方に変化していたようだった。
私はその事について自覚がなかった。
社会人になり、ある日の飲み会の席で箸の持ち方の話題になり、
「私の箸の持ち方は綺麗だろう?」
みたいな事を宴席の仲間に言ったところ
「?」
皆んながそんな反応だった。
あれれ?である。
即座に
「どう持つのが綺麗なの?」
と仲間に教えを乞うた(笑)
「こうではないの?」「そうそう」
「あ、そうだね!」
である。
父に教えてもらった箸の持ち方が蘇った一瞬だった。
宴席の仲間のお陰様で
現在はクセの無い持ち方ができていると思っている。
父の介護を始めて間も無くだったと思う。
ボーッとしてしまった父をテーブルに座らせ
お昼ご飯を食べてもらおうとしていた。
その日は手抜きしてカップうどんである。
「5分経ったから食べれるよ」
父は少しだけ頷いたような
何の反応しなかったような
笑顔を見せたような
記憶が定かでないけれど
私が蓋を剥いて食べるように促すと
大きな手で箸を鷲掴みにして
カップうどんの容器に乱暴に箸を突っ込み
数本のうどんが引っかかった箸を口に運び
また乱暴に箸を突っ込み
うどんとスープが顎から胸や腹にダラダラと溢れているのも構わずに
何度もそれを繰り返した。
「美味しい?」
私が尋ねると父は頷いたように思う。
私は
咄嗟に二階に駆けて上がり
涙が止まるのを待った。
しばらく沢山流れて止まらなかった。
私に箸の持ち方を教えてくれた父が……
褒めてくれた父が……
その事だけが頭の全部に浮かんで涙が出て止まらなかった。
記憶を集めて集めて沢山思い出話をしても
元に戻らないのを憂いた。
少しでも少しでもと思った。
父も母も戦前生まれ。
食事を行儀よく丁寧にとるのが「卑しくない」のだった。
私はきちんと箸を持ち背筋を伸ばして食事をするように心がけている。
両親が教えてくれた「良い事」と信じている。
でも、酔うといけない
妻の分のおかずも食べる勢いで口に運ぶらしい笑
(妻の料理はとても美味しいのだ)
感謝を行儀に表して丁寧に食事をする事を心がけてゆこうと思っている。
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